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東京地方裁判所 平成6年(特わ)3119号 判決 1995年6月16日

本店所在地

東京都町田市つくし野二丁目一四番地一一

東阪急運輸株式会社

(右代表者代表取締役 佐々木正一)

本籍及び住居

東京都町田市つくし野二丁目一四番地一一

会社役員

佐々木正一

昭和一四年四月二一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官成川洋司、弁護人押切謙徳各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人東阪急運輸株式会社を罰金四五〇〇万円に、被告人佐々木正一を懲役一年六月に処する。

被告人佐々木正一に対し、この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人東阪急運輸株式会社(以下「被告会社」という)は、東京都町田市つくし野二丁目一四番地一一(平成二年一一月二二日以前は神奈川県相模原市下溝三〇五七番地の一、同年五月三一日以前は東京都足立区六町一丁目一六番一三号)に本店を置き、貨物自動車運送事業を目的とする資本金五〇〇〇万円(同年五月二四日以前は二〇〇〇万円)の株式会社であり、被告人佐々木正一(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括している者であるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空消耗品費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成元年七月一日から平成二年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六八八一万七五五八円(別紙1-1修正損益計算書及び1-2修正製造原価計算書参照)であったにもかかわらず、平成二年八月二一日、神奈川県相模原市富士見六丁目四番一四号所在の所轄相模原税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一〇三二万〇三五四円で、これに対する法人税額が二一〇万五六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二五五〇万四四〇〇円と右申告税額との差額二三三九万八八〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書(1)参照)を免れ

第二  平成二年七月一日から平成三年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億九〇五二万九七三三円(別紙2-1修正損益計算書及び2-2修正製造原価計算書参照)であったにもかかわらず、平成三年八月二三日、東京都町田市中町三丁目三番六号所在の所轄町田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八二七万〇七六六円で、これに対する法人税額が一六〇万二三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額七〇四一万七六〇〇円と右申告税額との差額六八八一万五三〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書(2)参照)を免れ

第三  平成三年七月一日から平成四年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億五五七七万四六三八円(別紙3-1修正損益計算書及び3-2修正製造原価計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年八月二八日、前記町田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三八三万六二一八円で、これに対する法人税額が一八万四〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額九四二六万五二〇〇円と右申告税額との差額九四〇八万一二〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書(3)参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書六通

一  岩渕利春の検察官に対する供述調書

一  瀬上律子(甲21)及び佐々木平吉(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の消耗品費調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、事業税認定損調査書及び損金の額に算入した道府県民税利子割調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書四通

一  登記官作成の登記簿謄本及び閉鎖登記簿謄本(四通)

判示第一及び第二の各事実について

一  松浦利昭の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官作成の賃金給料調査書及び広告宣伝費調査書

判示第一の事実について

一  押収してある法人税確定申告書(平成七年押第三二七号の1)

判示第二及び第三の各事実について

一  瀬上律子(甲22)、佐々木勝陽及び白井徹の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の路線運送収入(運送収入)調査書、外注加工費調査書及び固定資産売却損調査書判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の雑損失調査書、固定資産売却益調査書及び法人税額の特別控除額調査書

一  町田税務署長作成の証明書

一  押収してある法人税確定申告書(同号の2)

判事第三の事実について

一  加藤和夫の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官作成の賃借料調査書、貸倒損失調査書及び道府県民税の過誤納に係る還付金額調査書

一  押収してある法人税確定申告書(同号の3)

(法令の適用)

※以下の「刑法」は、平成七年法律第九一号による改正前のものである。

被告会社の判示各事実は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項(ただし、判示第一の事実の罰金刑の寡額は、刑法六条、一〇条により平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)に該当するところ、情状によりそれぞれ法人税法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金四五〇〇万円に処し、被告人の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項(ただし、判示第一の所為の罰金刑の寡額については、前と同じ)に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、貨物自動車運送事業を営む被告会社の代表者であった被告人が、佐川急便グループ傘下の運送業者として年々売上を伸ばしていた被告会社の所得を秘匿し、三事業年度にわたり合計一億八六〇〇万円余の法人税を脱税したという事案であるが、脱税額は右のとおり多額であり、ほ脱率も通算で約九七・九パーセントと高率である。犯行の動機は、被告会社の事業拡大のために簿外資金を蓄積するほか、自己の個人的利益を図るというものであって、格別酌量すべきものはない。犯行態様も、倒産会社の請求書用紙、領収書用紙を利用して架空の消耗品費、外注加工費を計上したり、元の従業員の名義を利用して架空の賃金給料を計上するなど計画的かつ巧妙である。被告人は、被告会社のワンマン経営者として、部下に不正行為を指示して本件犯行に及んだものであり、前科関係も考慮すると、被告人の規範意識の希薄さは顕著であるといわざるを得ない。以上によれば、被告人及び被告会社の刑事責任は軽視することができないところである。

他方、被告会社は本件各事業年度について修正申告をした上、法人税本税を完納していること、未納の延滞税、重加算税については、国税当局に被告会社振出の約束手形を差し入れ、平成七年七月から平成八年六月まで毎月分納する予定であり、完納が見込まれること、被告会社では新たに顧問税理士を迎えるなどして経理体制を改善していること、被告人は公判廷において反省の態度を示していること、被告人がいないと多くの従業員を抱える被告会社の経営が立ち行かなくなること、被告人には扶養すべき妻と学齢期の子供がいることなど被告人及び被告会社のために酌むべき事情も認められる。

以上の諸事情を総合考慮して、被告人については主文の懲役刑に処するとともにその執行を猶予し、被告会社については主文の罰金刑に処するのが相当であると判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社・罰金六〇〇〇万円、被告人・懲役一年六月)

(裁判官 中里智美)

別紙1-1

修正損益計算書

<省略>

別紙1-2

修正製造原価計算書

<省略>

別紙2-1

修正損益計算書

<省略>

別紙2-2

修正製造原価計算書

<省略>

別紙3-1

修正損益計算書

<省略>

別紙3-2

修正製造原価計算書

<省略>

別紙4

ほ脱税額計算書

東阪急運輸株式会社

(1) 自 平成元年7月1日

至 平成2年6月30日

<省略>

(2) 自 平成2年7月1日

至 平成3年6月30日

<省略>

(3) 自 平成3年7月1日

至 平成4年6月30日

<省略>

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